


国立循環器病研究センターは、高度先駆的医療はもちろん、指導的医療人の育成を目的とする、教育・研修を提供するナショナルセンターとしての使命を担っています。薬剤部においても、薬剤管理指導業務を通じて医薬品の適正使用を推進し、最適な薬物療法を提供しています。また、臨床薬学的研究を積極的に実施するとともに、病院、大学などとの連携も進めており、同時に循環器病疾患の薬物治療を専門とする薬剤師育成のため、薬剤師レジデント制の導入(平成22年度から実施)や薬剤師研修センター、他施設薬剤師、薬学部学生を受け入れ、教育・研修に力を注いでいます。
薬剤管理指導業務は、1988年4月病院薬剤師の新たな業務として診療報酬に新設された入院調剤技術基本料施設基準に関わる業務が前身です。2008年4月の診療報酬改定では、ハイリスク薬を使用する患者さんおよび救命救急入院料等の算定対象となる重篤な患者さんに対して実施した場合を重点的に評価することとされ、後者に対しては、直接服薬指導ができない場合についても、その他の薬学的管理を行うことにより算定可能となりました。薬剤管理指導業務の導入は、従来の外来患者さん中心の業務から入院患者さんを指向した業務への転換であると同時に病院薬剤師本来の職能を期待する社会の要求でもあり、また薬剤師のチーム医療への参画の必要性を示唆しています。
薬剤部は、2006年4月より一般病棟の薬剤師常駐化を開始し、2008年4月には、特殊病棟も含め薬剤管理指導業務を通じて、持参薬確認、薬剤情報提供、抗菌薬・抗不整脈薬のTDM、副作用モニタリングを実施し、医療チームの一員として医療安全および薬物療法の質の向上に貢献しています。(表1、表2)
【表1 薬剤師の病棟業務】
| 薬剤師の病棟での業務 | 常駐病棟 | 訪問病棟 | |
|---|---|---|---|
| 一般病棟 | 一般病棟 | 特殊病棟 | |
| 9階 8階 7階 6階 5階 | 10階 | 緊急 乳幼児 周産期 NICU CCU ICU NCU SCU 手術室 |
|
| 1 薬剤管理指導業務 | 380点 325点 持参薬確認 退院指導 疾患別標準ケアマニュアル |
380点 325点 疾患別標準ケアマニュアル |
430点 380点 325点 集中治療管理シート |
| 2 チーム医療連携 | 病棟カンファレンス参加 ICT・NST・褥瘡担当薬剤師との連携 薬剤部内服薬指導カンファレンス |
ICT・NST・褥瘡担当薬剤師との連携 薬剤部内服薬指導カンファレンス |
ICT・NST・褥瘡担当薬剤師との連携 薬剤部内服薬指導カンファレンス |
| 3 医療安全推進業務 | プレアボイド報告 副作用報告 |
プレアボイド報告 副作用報告 |
プレアボイド報告 副作用報告 |
| 4 調剤・製剤支援業務 | TPN調製 定期薬配薬(8階) 退院配薬(8階・7階) |
TPN調製 | TPN調製 |
| 5 薬品管理支援業務 |
定数保管薬点検 |
定数保管薬点検 |
定数保管薬点検 |
| 6 DI支援業務 |
適正使用に関するDI 抗不整脈剤・抗生剤・免疫抑制剤TDM 集団教室の開催 |
抗不整脈剤・抗生剤・免疫抑制剤TDM |
適正使用に関するDI 抗不整脈剤・抗生剤・免疫抑制剤TDM 集団教室の開催 |
【表2 薬剤管理指導の推移】
| 月平均件数 | 平成 20年度 | 平成 21年度 | 平成 22年度 |
|---|---|---|---|
| 薬剤管理指導請求件数 | 1,781 | 1,474 |
1,321 |
| 1.救命救急入院料等 |
23 |
11 |
26 |
| 2.ハイリスク薬管理 | 1,110 | 1,027 |
939 |
| 3.1及び2以外 | 648 |
436 |
357 |
| 退院時指導数 | 100 | 43 | 27 |
| 実施患者数 | 1,116 |
922 |
882 |
薬剤師常駐病棟では、入院時に薬剤師による初回面談を実施し、持参薬の確認とそれらに関する情報収集・評価を行い、必要な情報を医師等に提供することで、医療事故の防止を図っています。
薬剤師主導のプレアボイド収集報告体制および医薬品安全性情報報告体制を構築し、重篤な事例について日本病院薬剤師会および厚生労働省への正式報告を行い、医療安全に貢献しています(図1、図2)。
【図1 プレアボイド報告件数の推移】
【図2 副作用報告件数の推移】
病棟では、患者さんへの集団指導として、各病態別薬剤や一般的な薬剤について知っておくべき知識についての指導も行っています。(表3)。
【表3 各教室の参加患者数の推移】
| H20 | H21 | H22 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 回数 | 参加 患者数 | 回数 | 参加 患者数 | 回数 | 参加 患者数 |
|
| 高血圧教室 | 40 | 96 | 43 | 95 |
18 | 44 |
| 腎不全教室 | 18 |
38 |
21 |
36 |
18 | 50 |
| 動脈硬化教室 | 22 | 63 |
24 |
65 |
30 | 86 |
| 脳卒中教室 | 23 | 207 |
20 | 158 | 20 | 192 |
| 心臓リハビリ教室 | 8 |
61 |
9 |
56 |
7 | 17 |
| 乳幼児教室 | 11 | 45 |
11 | 17 |
10 | 25 |
| 思春期相談教室 | 0 |
0 |
0 |
0 |
0 | 0 |
| 心不全教室 | 7 |
99 |
5 |
24 |
0 | 0 |
| 合計 | 129 |
609 | 133 | 451 |
103 | 414 |
わが国では1997年10月の臓器移植法制定後、1999年2月に初めて心臓移植が施行され、12年経過した2010 年3 月までに70例の心臓移植が施行されました。その後、2009 年7 月17 日、「臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律」(改正臓器移植法)が公布され、6ヵ月後の2010年1月17日から改正臓器移植法の一部(親族への優先提供)が、同年7 月17 日からは全面的に施行されました。改正臓器移植法以降2011年7月12日までに、37例の心臓移植が施行され、現在まで合計107例の心臓移植が施行されています。移植医療における臓器提供者が非常に少ない現状では、心臓移植適応患者さんの待機期間は非常に長くなっており、待機期間中に心不全が増悪し、カテコラミンなどの薬物療法で全身状態を維持できなくなった場合、補助人工心臓を用いた心機能の維持が試みられます。国立循環器病研究センターでは、移植待機患者さんと移植後の患者さんを重症心不全病棟の一貫した管理体制で、なおかつチーム医療体制をしき、患者さんケアーを行っています。その中で薬剤師もチーム医療の一員として活動しており、その役割はますます重要となっています(図3)。
【図3 補助人工心臓装着の患者さんおよび移植後の患者さんのチーム医療体制】
補助人工心臓装着中の主な合併症として、挿入部の創部感染、血栓塞栓症・出血、心不全に伴う不整脈などがあります。一方、移植後の患者さんにおいては、急性・慢性拒絶反応・日和見感染等の問題があります。まず、主な合併症の一つとしての感染症の治療に際しては、薬剤師は院内ICTと連携をとりながら、適切な薬剤の選択とともに、有効な薬物血中濃度を確保するための薬物治療モニタリング(TDM)を行い、患者治療に参画しています。ポンプ内血栓塞栓症の予防および治療に関しては、ワルファリンが用いられます。ワルファリンは、多くの薬剤や食物との間に相互作用があり、併用により効果の増強や減弱を生じ、その結果、重大な出血や塞栓症が発生する場合があり、相互作用の把握が処方設計時に重要となります。薬剤師は、ワルファリンと併用薬剤との相互作用の情報提供を行い、適切な凝固能が確保できるようなファーマシューティカルケアを行っています。不整脈の治療に関しては、アミオダロン等のTDM管理を行い、その有効性の確保と副作用の防止に努めております。さらに、心不全の進行に伴い著明な食欲不振が発生する場合があり、体格指数(BMI)の低下が生命予後を左右するとの報告もあることから、心不全患者さんの栄養管理は重要な位置づけとなります。この問題を解決する上で、栄養サポートチーム(NST)の重要性が認識されており、そのチームの一員である薬剤師は適切な輸液製剤の選択などの栄養治療計画への参画しています。一方、心臓移植後患者さんの場合、免疫抑制剤の効果不足による拒絶反応の発生や過剰投与による副作用を如何に防止するかが重要な課題となり、適切な免疫抑制剤の血中濃度管理が必須となります。薬剤師は、移植後に使用されるシクロスポリン、タクロリムス、エベロリムス、ミコフェノール酸モフェチル等の免疫抑制剤のTDM管理を行い、医師の処方設計に参画しています。また、移植後の日和見感染の予防・治療に関しては、薬剤師は移植前患者さんの場合と同様にTDMを行い、患者さんの治療に参画しています。
以上のように、心臓移植術前後における薬物療法においては薬剤師によるファーマシューティカルケアを存分に発揮すべき場面が多く、チーム医療の中での薬剤師の薬学的専門性は不可欠となっています。現在の国立循環器病研究センターの心臓移植待機患者さんおよび移植後の患者さんに対する薬剤師のチーム医療における役割を図4に示します。
【図4 心臓移植待機患者さんおよび移植後の患者さんに対する薬剤師のチーム医療における役割】
薬物治療モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring :TDM)とは、薬学の専門知識を生かした業務で、単に薬物濃度測定に留まるものではなく、個々の患者さんの血中薬物濃度を、薬物動態理論に基づいて解析し、投与設計に反映させることにより薬物治療を有効で安全なものに個別に最適化し、医薬品の適正使用に貢献するものです。
TDMは(1)副作用・薬物中毒の疑いの診断のため (2)用量調節による投与設計のため (3)治療効果の確認のため (4)服薬状況の確認のため等を目的に医師の依頼に基づき血中薬物濃度を測定しますが、個々の患者さんの病態生理学的変動による薬物動態の変化が予想される場合や薬物相互作用が予想される場合は、薬剤師から医師へ積極的に採血タイミングをコンサルトしています。また近年では薬物代謝酵素に遺伝的多型が存在することが報告され、薬物血中濃度および薬効・副作用発現の個人差に大きく関与することが明らかになり、テーラーメイド医療においてもTDMは重要であるといえます。試験検査室では、抗不整脈薬をはじめとする循環器病薬、移植医療における免疫抑制剤や抗菌剤などの測定解析を行っています(図5、図6)。
【図5 薬物血中測定件数】
【図6 薬物血中濃度解析件数】
わが国における心臓血管疾患、脳血管疾患は、死亡数において癌に次いで第2位、第3位という状況であるが、患者数では癌をはるかに上回っている。これに対応すべく近年、循環器疾患の診断・治療法は急速に進歩してきており、その治療薬剤に関しては、専門的な知識および管理が必須となるものが多い。当センターにおける薬剤師レジデント制度は、わが国における循環器疾患の薬物療法の適正使用を推進し、将来この領域における先端的研究や高度専門薬剤師の育成・指導を行う牽引役となりうる人材を育成することを目的としており、病院薬剤師業務の基本的技術を修得するとともに循環器疾患に関する臨床および研究業務を行うこととする。研修期間は2年間とし、指導薬剤師のもとに業務に従事し、その修了は各々の目標の到達状況を評価することにより認定する。
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| 第21回日本医療薬学会年会での薬剤師レジデント発表風景 | |

最終更新日 2012年04月05日