


小児循環器科には、先天性心疾患、不整脈、肺循環疾患、川崎病、心筋疾患などの新生児から成人までの患者さんが、年齢別に3つの病棟に分かれて入院しておられ、小児循環器施設として国内最大規模を誇っております。さらに国立循環器病研究センターの小児心臓外科および周産期・婦人科部と共同(小児循環器・周産期部門という診療部門を形成しています)で、胎児期から新生児、小児、成人(女性では心疾患合併妊娠・出産の診療を含む)にいたるまでの成長・発達に伴う一連の心疾患に対応しております。
具体的な内容として、心房中隔欠損をはじめとする先天性心疾患に対するカテーテル治療、先天性心疾患の術前術後の集中治療、複雑先天性心疾患に合併する不整脈の診断と治療、原発性肺高血圧やアイゼンメンガー症候群などの肺循環疾患に対する新しい治療、心エコーやMSCTを用いた3次元画像診断、核医学による心機能診断、遠隔期の川崎病患者さんの管理と治療、心筋疾患の管理と心臓移植、そして治療成績の向上に伴って現在患者さん数が急増している成人先天性心疾患患者さんの診断と治療など、広い範囲を担当しております。開設以来30年以上にわたり、どの分野も、国内のみならず、世界をリードする診療内容を行って参りました。
私たち小児循環器科では、全国の小児科ならびに循環器内科の先生方が、いつでも安心して患者さんをご紹介いただけるよう努力しております。また卒後研修として、小児および成人先天性心疾患を学ぼうと考えておられる若い小児科医や循環器内科医の先生方にとって、数多くの患者さんを診察できる点において、国内の他の施設では経験することのできない大変すばらしい環境にあると言えます。このような先生方のために、当センターでは毎年レジデントおよび専門修練医を募集しております。
レジデント/専門修練医コース案内 をご参考にしてください。
以下に小児循環器科の代表的な診療内容を説明いたします。
先天性心疾患に対する治療の歴史をたどると、その修復は主に外科手術を中心として発展してきました。一方、1960年代に始まったカテーテル治療は、器具の進化や技術の向上によって近年急速に進歩を遂げています。現在では、外科治療と協調して、その補完的役割やハイブリッド治療の一役を担うばかりではなく、肺動脈弁狭窄、心房中隔欠損、動脈管開存など一部の疾患においては、カテーテル治療のみで修復が完結するものがあります。このような医療の時代的な変遷に伴い、我が国でも先天性心疾患に対するカテーテル治療の実施件数は年間3,000件を超え(JPIC学会集計)、大きく普及しつつあります。
国立循環器病研究センターでは、黎明期より数多くのカテーテル治療を行ってきました。最近では年間200件を超え、施設別実施件数では他施設を大きくリードする国内随一の実績を残しています。一方では、このような先進性に傾斜することなく、治療の安全性や有効性にも十分に配慮しています。また同時に、長年の実績をもとに、患者さんの長期予後を見据え、外科的治療も含めた治療選択肢のなかから最善の治療を選択することを最優先とする姿勢で臨んでいます。
【図.小児循環器科におけるカテーテル治療の件数の年次推移】
【図.心房中隔欠損(左)および動脈管開存(右)のカテーテル治療】
われわれの施設では、新生児乳児期の重症心疾患の集中治療を行う病棟として乳幼児病棟33床を有しています。年間120~200例の入院があり、うち生後28日未満の新生児入院は、21年度では周産期・婦人科部からの院内出生児を含めて全体の57%を占めています。複雑先天性心疾患や重症心不全例が多く、大半が緊急入院となります。先天性心疾患の手術前後の呼吸循環管理、心不全治療および不整脈管理を中心に毎朝全スタッフでミーティングを行ない、病状や治療方針を共有し診療に当たっております。
迅速な外科との連携のもと、緊急手術の必要なductal shock、急性僧帽弁閉鎖不全なども24時間、365日体制で受け入れております。また肺動脈閉鎖に対する経皮的肺動脈弁形成術や総肺静脈還流異常に対する垂直静脈ステンティングなどのカテーテル治療も、外科のバックアップのもとに積極的に行っております。
最近では周産期・婦人科部と合同で胎児心エコーを行い、ハイリスク症例は出産前から小児循環器科、周産期・婦人科部および小児心臓外科とで合同カンファレンスを行ない、治療方針を検討しています。
成人に達する先天性心疾患(adult congenital heart disease:ACHD)患者さんの数は毎年増加しています。当院では毎年約300例のACHD患者さんが入院していますが、そのうち約30例(10%)が緊急入院であり、私たちは急性および慢性のACHD患者さんの対応を実践しています。ACHDの病態、特に複雑なACHD患者さんの病態は、正常構造の心臓が虚血や心筋疾患に基づいて機能不全に陥る場合とは病態が大きく異なります。ACHD患者さんでは、一人一人の患者さん固有の心血管系の構造異常とそれに基づく特有の血行動態を把握することが第一ですが、加えて、正常構造心の患者さんで構築された心不全および不整脈の基本的な概念を基に、患者さんを治療および管理することが基本となります。最新のカテーテルや外科治療に加えて、最近では腎機能障害および糖脂質代謝異常と心疾患との強い関わりを考慮しながら、最終目標であるACHD患者さんの長期予後とQOL改善を目指しています。
国立循環器病研究センターは、これからACDHを勉強しようとする小児循環器医および循環器内科医の先生方にとって、ACHD患者さんの最終目標達成に向けての充分な経験と知識習得の提供を可能とする、極めて貴重な日本の施設群の一つです。
小児循環器科の主要な対象疾患である先天性心疾患は、肺血行動態の異常を高頻度に伴います。例えば、心臓から肺へ繋がる血管が全く存在しない肺動脈閉鎖はその一例ですが、ファロー四徴や複雑心奇形複合にはしばしば合併します。また左右肺動脈分岐部、近位部肺動脈での狭窄も広い意味では肺血管障害に含まれます。このような肺門部までの狭窄病変は外科的治療の対象となりますが、当小児循環器科での診療対象はもう少し下流(遠位部)の肺血管病変で、外科治療の対象外のところです。一部はカテーテル治療が可能ですが、多くは内科的治療のみが行われます。対象に含まれる疾患と病変部位は以下の通りです。
1) 多発性末梢性肺動脈狭窄(病変部位:遠位部肺動脈)
2) 肺動脈性肺高血圧(肺小動脈-肺細小動脈)
特発性肺高血圧、アイゼンメンゲル症候群などが含まれます。
3) 肺動静脈瘻(毛細管前細小動脈-毛細管後細小静脈)
4) 肺静脈閉塞症(肺小静脈-肺細小静脈)
5) 肺静脈瘤(近位部肺静脈)
これらのうち多数を占めるのは、2)肺動脈性肺高血圧と 3)肺動静脈瘻ですが、肺高血圧に関しては、以前は治療に有効な肺血管拡張薬がなく、特に小児では非常に予後の悪い疾患とされていました。しかしながら1999年にエポプロステノール(商品名フローラン)が使用できるようになって以来、治療成績は格段に向上しています。最近は更にPDE5阻害薬、エンドセリン受容体拮抗薬その他の新規薬品が開発され、選択の範囲が広がってきています。当科では国内で承認される前からエポプロステノール導入を積極的に行っている本邦小児科でのパイオニア的存在で、現在も新薬の治験を含め積極的に取り組んでいます。
また 3)肺動静脈瘻では毛細血管を介さずに肺小動脈と肺細小動脈がつながるため、肺胞から血液に酸素を取り入れることが出来なくなり、チアノーゼと同時に血流量増加さらに続発性心不全をきたします。酸素吸入療法や薬物療法だけでなく、コイル塞栓などカテーテル治療も行っています。
【図1.肺動静脈瘻】 |
【図2.肺動静脈瘻コイル塞栓治療後】 |
小児循環器領域における不整脈は、器質的心疾患非合併例と器質的心疾患合併例に分けられます。その治療としては、薬物治療、電気整理検査/アブレーション治療、ペースメーカー/ICDがあげられ、これらを組み合わせながら、患者さんの背景、血行動態を考慮して治療方針を決定しております。
器質的心疾患非合併例の頻脈性不整脈は予後良好なことが多く、薬物療法によく反応しますが、電気整理検査・アブレーション治療で完治を目指せることがほとんどです。このような患者さんにはアブレーション治療を積極的にお勧めしています。しかしながら、器質的心疾患合併例の頻脈性不整脈は、時に複数の起源や徐脈の合併がみられ、薬剤抵抗性で治療に難渋することがあります。先天性心疾患合併例では、術後の特殊な血行動態を背景に発症することが多く、外科治療や心不全治療などの内科的治療による血行動態の改善と、アブレーション・抗不整脈薬を組み合わせた治療を行っています。
“刺激伝導系は心臓の一部である”ことを念頭に、不整脈がおこる原因、血行動態を考慮して、診断・治療を行っています。
川崎病と川崎病による冠動脈障害をもつ患者さんについて、診断、治療方針の決定(内科的、外科的治療を含む)と経過観察を行っています。川崎病は原因不明で、罹患者数は漸増していますが、経過観察を必要とする冠動脈障害をもつ患者さんは1~2%です。患者群の規模が小さいこと、小児であり経過観察が長期間におよぶこと、他科との連携が必要であることから特殊性をもった分野です。このため、診断、治療に際して、判断に苦慮することがあります。現在では、今までの当院での30年の経験をふまえて、通常の川崎病外来に加えてセカンドオピニオン外来も行っております。
小児の心筋疾患(心筋症、心筋炎)は、症例数が少なく、進行がはやく予後不良の場合が少なくありません。画像診断、心臓カテーテル検査を含めた諸検査を行い、状態、予後を改善しうる方針を計画いたします。また、病状が進行した患者さんには心臓移植の適応を判定し、国内での移植を希望される場合は、ネットワークへの登録を行っています。
小児循環器科では、生理検査室の協力を得て、小児循環器領域の経胸壁心エコー検査を毎年8,000件以上施行しています。初期診断から最終手術までを施行する施設として、治療方針を見据えた質の高い検査が可能です。近年は三次元心エコーを臨床導入し、房室弁などの三次元形態や心室容積、心筋壁運動の評価が可能となり、さらに精密な診断が可能となっています。
【図.左心低形成症候群新生児の3次元心エコー所見と心機能解析】
小児循環器科では、周産期・婦人科部と合同で胎児心臓病診断を行っています。胎児心エコーによって、先天性の構造異常や機能異常の診断、また胎児心磁図も併用した不整脈診断など、幅広い胎児心疾患を対象として正確な診断を行い、出生前治療および新生児期治療から小児期および成人心臓外科手術まで、シームレスな治療を施行することが可能です。現在では心疾患による新生児期入院の約40%が胎児診断された症例です。
インターネットを利用して心エコー動画をリアルタイムに転送し、小児循環器の専門医師がいない施設から遠隔画像診断することが可能です。これまで新生児領域に臨床応用し、リアルタイムに心エコー診断することによって、診断援助を求めてきた病院に、正確で適確なアドバイスが可能である事を実証してきました。この技術は胎児心エコーや経食道心エコーにも応用可能です。
【図.心エコーのリアルタイム遠隔画像診断システム】
小児循環器科では、放射線部と合同で毎週6例(毎年200例以上)の心臓MSCT検査を行っています。新生児から成人まで幅広い年齢層の先天性心疾患、川崎病、心筋症などを対象に、創立以来の経験と知識を生かし、最新の設備を用いてハイレベルの検査を施行する事が可能です。
【図.大動脈離断の新生児MSCT所見】
小児循環器領域における画像診断では、心エコー、CTやMRIなどのmodalityによる形態診断と、RIによる機能診断に分けられます。心筋シンチグラムでは心筋血流、心筋障害、心臓交感神経機能、心筋心臓脂肪酸代謝を診断することができます。さらに心電図同期SPECT画像を用いたQGSプログラムにより、心機能の解析が臨床的に有用です。複雑心疾患におけるFontan型手術では、肺循環の機能的診断は不可欠であり、肺血流シンチグラムによる術前後における肺血流分布の評価をおこなっています。Ga製剤による感染性心内膜炎、術後胸腔内感染、心筋炎の診断も積極的に行っています。最近では、Fontan術前の体肺動脈側副血行路の評価、術後低酸素血症の定量的評価を行うことで、内科的治療、カテーテルインターベンションの治療効果の評価を行っています。さらにCT画像とのfusion imagingを作成することにより、形態診断と機能診断の統合が可能になり、詳細な病態評価が可能になってきています。